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神戸地方裁判所 昭和42年(行ウ)12号 判決 1970年9月08日

原告 丸草カナエ 外一六名

被告 西宮公共職業安定所長

訴訟代理人 川村俊雄 外一二名

主文

本件各訴を却下する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事  実 <省略>

理由

第一、先ず、被告の本案前の主張について判断する。

一、被告は原告らには申請行為自体が存在しないと主張するので検討する。

(一)  施行規則二〇条三項一号が就職促進措置の認定申請をするための要件として定める公共職業安定所に対する求職の申込については、原告堀田はなを除くその余の原告らが別紙二<省略>の求職年月日欄記載の各日に被告に対して求職の申込をしたことは当事者間に争いがなく、<証拠省略>によれば、原告堀田はなが、昭和四二年六月九日被告に対して求職の申込をしたことが認められる。

(二)  職安法二七条一項三項、施行規則二〇条一項二項の各規定によれば、就職促進措置の認定申請は原則として職業安定局長が定める手続および様式に従つてなされなければならないことが明らかであるがその要式性の遵守は必ずしも公共職業安定所備付の用紙によることを要しないと解すべきところ<証拠省略>によれば、当時西宮職安における就職促進措置の認定申請から受理に至る手続は、申請の申出、申請書用紙の交付請求、交付記入提出、受付、審査、受理という過程を経るものであつて申請書用紙の交付行為自体は、受付とともに、全体としての申請受理という被告の業務の一部であることが認められるところ、<証拠省略>によれば、被告は昭和四二年五月二三日西宮職安内に別紙三記載の掲示をしてから、原告らが就職促進措置の認定申請をするため全日自労の役員らと共に来所した際、その都度原告らが全日自労の役員を帯同したことを理由として、申請書用紙の交付をはじめ就職促進措置に関する一切の職務行為を行わなかつたこと並びに原告らは別紙二<省略>の申請年月日欄記載の各日に被告に対しそれぞれ認定申請の申出とともに申請書用紙の交付請求をしたことが認められるが、右のように申請書用紙の交付がなされない以上、原告らが前記のような法の定める手続および様式に従つた本来の意味での申請をなすことは事実上不可能に帰し、就職促進措置の認定への方途を鎖されることとなるから、認定申請が要式行為であることは前叙のとおりであつても被告の申請書用紙の不交付を正当化すべき特段の事情の認められない本件においては、原告らが被告に対し認定申請の申出とともに申請書用紙の交付詰求をした行為をもつて申請行為(記入提出)をしたものとみなすのが条理上相当である。

もつとも、被告主張のような事情の存する場合には、一時的にせよ、被告の業務が繁忙化し渋滞することは想像に難くないところであるが、失業者に対し可及的速かに就職促進措置の認定申請を行わせることが職安法の建前である以上、被告が業務上の便宜のために申請書用紙の不交付により失業者に対し右認定への方途を鎖すことは許されないところであるから、被告主張のような事情は申請書用紙不交付を正当化すべき事由とはならないし、また前叙のような見解をとつたところで、申請書に記載すべき必要事項は被告において既に求職申込受理の際了知しているところであるから、被告の業務上格別支障の生ずることは考えられない。

(三)  さらに、被告は行政指導として原告らに就職促進措置の認定申請を留保してもらつたものであると主張し、<証拠省略>はほぼ右主張に副うような証言をするけれども、右証言は<証拠省略>に照らしてにわかに措信しがたく他に右主張を認めるに足る証拠はない。

よつて、原告らに申請行為自体が存在しないとの被告の主張は理由がない。

二、原告が第一次請求の請求の趣旨第一項において被告の不作為の違法確認を、第二次請求において被告の処分の取消をそれぞれ求めるのに対し、被告は不作為の違法確認を求める訴は不適法であると主張するので、本件の場合いずれの訴訟形態によるべきかについて検討する。

不作為の違法確認における不作為とは、行政事件訴訟法三条五項の規定によれば「行政庁が法令に基づく申請に対して、相当の期間内になんらかの処分又は裁決をなすべきにかかわらずこれをしないこと」と定義されており、不作為とは行政庁がなんらかの処分その他公権力の行使にあたる行為をなすべきにもかかわらずこれをしない状態をいい、公権力の行使にあたる行為とは、法が認めた優越的な地位に基づき、行政庁が法の執行としてする権力的意思活動であり、優越的立場において行われる法律的行為および準法律行為が含まれるばかりでなく、優越的な立場において行われる事実上の行為も含まれる。したがつて行政庁が法令に基づいて行う職務行為もまた公権力の行使にあたるものということができ、これら職務行為を一切行わない行為は、具体的な拒否行為が既になされたものとみるべきでなく公権力の行使にあたる行政庁の行為がなかつた場合であり、不作為にあたるものと解するのが相当である。

これを本件についていえば、就職促進措置の認定に関する申請書用紙の交付から認定、不認定の判定に至るまで被告がなすすべての職務行為も公権力の行使にあたる行為ということができ、さらに、前記一で認定したように、被告は原告らの就職促進措置の認定申請の申出に対し、原告らが全日自労の役員を帯同したことを理由として、単に申請書用紙の交付を拒否するだけでなく、就職促進措置に関する一切の職務を行わなかつたのであるから、被告の右の行為は取消訴訟の対象となる具体的拒否行為が既になされた場合ではなく、行政事件訴訟法三条五項に定める不作為にあたるものである。

したがつて、原告らの第一次請求の請求の趣旨第一項の不作為の違法の確認を求める請求は訴訟の形態としては適法であるが、被告の処分の取消を求める第二次請求は、その前提である取消の対象たる被告の具体的処分を欠き不適法であるといわなければならない。

三、進んで、本件不作為の違法確認の訴の利益について検討するに、行政事件訴訟法三条五項に定める不作為の違法確認の訴は、行政庁が国民から法令に基づく申請を受け、相当の期間内にその申請に対応する処分、その他公権力の行使にあたる行為をなすべきであるにもかかわらず、なんらかの処分ないし行為(以下、処分とのみいう。)をしないことを違法とし、これを確認することによつて、拘束力をもつて行政庁をしてすみやかになんらかの処分をなさしめることによつて、申請人の救済をはかるところに目的があり、その訴で確認された違法は国家賠償請求の要件である違法とは法律的に無関係なのであるから、その後、行政庁においてなんらかの処分をした以上、その処分により権利ないしは法的利益を害されたものから、右処分自体の取消し等の訴を提起するのは格別、もはや拘束力によつてすみやかに処分してもらうために判決を得る必要はなく、不作為の違法確認を求める利益は失われるに至つたものと解するのが相当であり、また、その後、行政庁が従来の業務取扱方針を改めて法令に基づく申請権を有するものが申請しさえすれば、なんらの条件、制限を付することなく、すべて一様に職務行為を行い、申請を受付けることが明らかであるような場合にも右と同様に解すべきである。

ところで、これを本件についてみると、別紙五<省略>記載の各原告が同別紙記載のとおりいずれもその後被告に対し就職促進措置の認定の申請をし、受付けられたことは当事者間に争いがなく、また、<証拠省略>によると、被告は昭和四二年一〇月二一日、就職促進措置に関する窓口を再開し、それ以後は、法令に基づく申請については、なんらの差別もなく、いつせいに申請書用紙を交付し、申請を受理していることが明らかである。したがつて、前記の理由により、原告らの本件不作為の違法確認を求める第一次請求の請求の趣旨第一項は、その確認の利益を失つたものというべく、不適法として却下をまぬがれない。

四、さらに、原告らは第一次請求の請求の趣旨第二項において被告に対して原告らの申請を受理すべき作為を命ずる判決を求めている。

右のような行政庁に対して行政行為をなし、あるいはなさないことを訴求する訴訟が許されるか否かについては争いのあるところであるが、憲法の定める三権分立の趣旨からしても、元来行政行為をなすか否かの決定は、まず行政庁の判断によつてきめるというのが行政行為をなす権限を法が行政庁に与えたことの実質的意味であり、司法権はその行政的判断の違法の有無を事後に審査し、違法があればその効力を否定するに止まるのが原則なのであるから、仮りに右のような訴訟形態が許されるとしても、行政庁の第一次的判断を尊重する必要のないほど、行政庁が一定の行為をなすべきことが法律上き束されており、かつ、裁判所によつて行政庁に対して作為ないし不作為を命ずるのでなければ、国民の権利の救済が得られないようなごく限られた場合にのみ許されるものと解すべきである。

ところで、前記三で認定したように、別紙五<省略>記載の原告らは既にその後申請を受付けられており、また、その余の原告らについては、被告は既に従来の業務取扱方針を改め、何らの条件、差別を付することなく申請を受理しているのであるから、被告に対して判決をもつて申請の受理を命ずる必要もなく、また、命じなければ原告らの権利救済が得られず、回復しがたい損害を生ずるというような緊急の必要も認められない。

したがつて、原告らの第一次請求の請求の趣旨第二項もまた不適法というべきである。

第二、以上説示のように、原告らの第一次、第二次の各請求による本件各訴はいずれも不適法であるから、本案の当否について判断するまでもなく、これを却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 谷口照雄 仲西二郎 滝川義道)

別紙三

中高年令失業者等就職促進措置対象者の皆様へ

今般本年五月二十三日付県の通達により、今後就労者団体等の帯同による新規求職申込は一切受理いたしません。

なお、既に求職されている方及び申請中認定指示されている方については、上記帯同行為があつた場合は直ちに不認定または認定取消処分を行ないますからご承知下さい。

昭和四二年五月二十三日

西宮公共職業安定所長

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